(後編)
日増しに暖かさを帯びる風が新緑を揺らす頃・・・
フレッドとジョージの誕生日がやって来た・・・
「おいフレッド今日はオリバーと会うのか?」
「うん、何かお祝いしてくれるらしいな・・・仕事終わったら夕食に誘われてる」
お前もだろ?
フレッドはタイを結びながらジョージを見る。
「まあな〜夕食作るから食べに来いって言ってたな・・・」
フレッドの部屋に昨日から遊びに来ていたジョージは、
まだベッドの中で新聞を読んでいる。
「アハハ、リーは料理上手いモンな〜」
オリバーに作れるのは茹で卵ぐらいだぜ〜・・・
髪を整え身支度を終えるとフレッドはジョージに顔を向ける。
「じゃ、俺会社へ行くから戸締り頼むな」
「おう!気をつけてな〜」
部屋を出ようとしたフレッドがピタリと足を止め振り返った。
「おい!ハッピーバースディ〜!ジョージ!」
「おう!お前もな!おめでとう〜!」
ニッと笑い合いお互いに祝福の言葉を贈る。
「素敵な誕生日をな〜」
「イカした誕生日を!」
「フンフフ〜ンッ!よっとっ!」
リーはフライパンを振り上げ、ポンと放り投げたパンケーキを皿で受けた。
「ジョージは生クリームのケーキより、シンプルなパンケーキの方が好きだからな〜」
バターのきいたパンケーキを頬張りながら、その極上の味にリーの顔が綻ぶ。
「く〜っ!俺って言葉の魔術師だけじゃなく料理の鉄人でもあるんだな〜」
自分の才能が怖いぜ〜っ!
ルンルンと鼻歌を歌いながらオーブンの火加減を覗き込み・・・
「よし、肉を放り込んで終わりだぜ〜」
香草野菜を敷き詰めたトレーに、下ごしらえした肉の塊を載せオーブンに放り込んだ。
「ジョージが来る頃には絶品のローストビーフの出来上がりだぜ〜」
さてと演出の仕掛けでもしておくか・・・
黒のエプロンを外し、サイドテーブルに放り投げ居間へと移動した。
「暖炉の中に指輪を隠してっ・・・と・・・」
綺麗にラッピングされた小さな箱を暖炉の薪の中にゴソゴソと隠す。
「へへっ・・・二人がテーブルに着き、明かりを消しキャンドルを灯す・・・」
そしておもむろに俺が暖炉に火を入れる!
リーが右手の杖でテーブルを指し、続いて暖炉を指す。
「そこで杖を振り、暖炉の中から燃え上がる指輪の箱を
ジョージの目の前に引き寄せ・・・」
こっからが重要だっ・・・!!
「突然飛んできた火の玉に驚くジョージのグラスに箱を落とすっ!!」
燃え尽きた箱からグラスの中にアラビアンナイトが現れる!
「そして一言だ・・・・」
『俺の燃え上がる愛を受け取ってくれ・・・ジョージ結婚しよう!』
「時間との勝負だ・・・箱が燃え尽きる時間はジャスト13秒!」
13秒で俺は勝負を決める!!
「何しろダイヤは火に弱いからな〜」
78個箱を燃やしてトレーニング済みだ・・・イケる!
「やるぜ・・・俺はっ!!」
感動のプロポーズだぜっ!
仁王立ちしたリーは盛大なガッツポーズを決める。
「・・・っと・・イケね酒買うの忘れてたぜっ!」
ビールとバーボンが切れていた・・・
リーは慌てて財布を握り締めると玄関を飛び出した。
「・・・・う〜ん・・・もう正攻法でいくしかないな・・・」
どれほど頭を捻っても感動の演出なんか思い浮かばなかった・・・
ウッドはポケットの箱を握り締め開き直った。
フレッドと待ち合わせた公園に向かう足を早める。
沈みゆく陽は最後の光を放ち赤く街を包む・・・
「ムードは完璧だ・・・・」
夕日に染まる公園のベンチで、
このアラビアンナイトとやらをフレッドの薬指にはめる・・・
「そして・・・・」
『好きだ!一緒に暮らそうっ!』
「うん、これでいこう!」
拳を握り締め大きく頷くウッドの眼の前がキラリと光る。
「んっ!?」
「開店の粗品でございま〜す」
「あっ?ああどうも・・・」
差し出された粗品を思わず受け取る。
どうやらヤング向けのアクセサリーショップの開店らしい・・・
花で飾られた店舗の前で、キャンペーンガールが道ゆく人に粗品を配っている。
「何だ・・・こりゃ?」
手の中の小さなもの・・・・
それはガラス玉の指輪だった・・・
「なんだ・・・指輪か・・・ガラスなんかより良い物を持ってるぞ・・・」
苦笑を浮かべオモチャの指輪をポケットに突っ込む。
「おっと、時間に遅れるぞっ!」
腕時計を見遣り、迫る時間にウッドは慌てて駆け出した。
「あれ・・・いないのか・・・?」
暖炉から部屋に現れたジョージが台所を覗く。
肉の焼けるいい匂いが部屋を満たしている。
「腹減ったな〜・・・どこ行きやがったんだリーの奴・・・」
居間のソファに寝転がり天井を見上げた。
「四月なのに今日は冷えるな・・・」
僅かに身を震わせジョージが呟く・・・
「カラスが煩いな〜」
待ち合わせた公園のベンチでフレッドは呟いた。
カーカー鳴くカラスをチラリと一瞥する。
夕日が赤く公園の木々を包む・・・
「桜が咲き始めたな・・・」
自分達の誕生日の頃は、ほころび始めた桜が公園に色を増やす。
「綺麗だな・・・」
「フレッド〜〜〜っ!!」
聞き慣れた力強い声に、フレッドは桜から視線を外し振向いた。
「オリバー・・・」
「すまん!遅くなって!」
駆けて来たウッドは息を整えながらフレッドの隣に腰を降ろす。
「今日は少し寒いな・・・」
大丈夫か?・・・
肩を抱き、顔を覗き込むウッドの過保護ぶりに思わず肩を竦め微笑む。
「うん・・・ちょっと寒いな〜まだ夜は冷えるよな・・・」
「これ羽織っておけ・・」
自分の上着をフレッドに掛けウッドはズボンのポケットを探る。
「あ・・・いいぜ・・オリバーが寒いじゃないか」
「俺は体温高いから気にするな・・・それよりフレッド・・・」
これを・・・
「オリバー・・・?」
真剣な眼差しでじっと見つめてくるウッドを、フレッドの不思議そうな眼が見上げた。
「うあああああああ――――――っっ!!!!!!!」
「なっ・・・なんだよっ!!??」
部屋に入ってくるなり叫び声を上げるリーにジョージが仰天した。
部屋中が暖炉の火で暖かさに包まれている・・・
「わっああああ〜〜〜っ!!」
アラビアンナイトが―――――っ!!
抱えていた酒を放り投げ、
リーは叫びながら燃える暖炉に駆けより手を突っ込む。
「あちっ!あっっ!うわっあっち〜っ!!」
「バ・・ッバカッ何やってんだよっ!火傷するだろがっ!!」
ジョージの腕が慌ててリーを暖炉から引き離す。
「あああ・・・アラビアン・・ナイト・・が・・・・」
「は?・・・・何だよそれ?」
眼を潤ませ、呆然と暖炉を見つめるリーにジョージは首を傾げた。
「受け取ってくれフレッド・・・」
「なに?」
ポケットから取り出した箱を、そっと掴んだフレッドの掌に置く。
「オモチャの指輪?」
小さな箱と一緒に、さっきの粗品がフレッドの掌に乗っかった。
「あっ!いや、こっちはさっき道で配ってたのを貰ったんだ」
慌ててウッドはオモチャの指輪をベンチの下に捨てる。
「こっちだ・・・!?」
ウッドはリボンを解き箱を開ける
「これっ・・・」
キラキラ輝く指輪が箱の中から現れた。
「アラビアンナイトという指輪だそうだ・・・」
受け取ってくれ・・・
指輪をフレッドの薬指にはめようとした瞬間!
「ん?」
黒い影がウッドの手元を横切った・・・・
「んんん――――っ!!!????」
指輪が消えたっ!
箱の中から忽然と指輪が消えているっ!!
「きっ・・消えたぁ――――っ!!??」
「オリバーッ!カラスがっ!!」
キラリとクチバシを光らせたカラスが夕日に向かって飛び去っていく・・・
「なっ・・なななな・・・何しやがるんだぁあああッ!!!!!」
あのカラス野郎っ―――――ッ!!!!!
「俺のアラビアンナイトを返さんかぁああ―――っ!!」
思わず立ち上がり、カラスに向かって叫ぶウッドを残し
振り返りもせずカラスは夕闇に消えていった・・・・
「何でまた・・・」
暖炉の中に指輪なんか隠してるんだよ・・・
泣きじゃくるリーの頭を撫でながら、呆れた声でジョージはぼやいた。
「うっうっ・・・感動的にプロポーズしようと思ったんだぜぇ〜っ!!」
すっかり灰になった燃えカスを見つめリーはまた新たな涙を流す。
「くぅうううっ!!給料の3ヵ月分がぁぁっっ!!」
「気持ちはわかったから・・・・泣くなよ」
溜息を吐きジョージは何とか燃え残ったプラチナ台を取り上げた。
「アラビアンナイト・・・『千夜一夜物語』か・・・・」
「くぅうううっ!!あのクソカラスめ―――――っっ!!!!」
焼き鳥にしてくれるわ――――っっ!!!
「カラスは光る物を集めるからな・・・・」
夕日に向かって悔しそうに叫ぶウッドに溜息を吐き、
フレッドはベンチの下のガラス玉の指輪を拾い上げた。
「何でまた指輪なんか・・・?」
「・・・・エンゲージリングの・・・つもりだったんだっ」
心底悔しそうにウッドは身体を震わせる・・・
「オリバー・・・」
「あのアラビアンナイトで・・・プロポーズしようと・・・」
「アラビアンナイトって『千夜一夜物語』だな・・・」
「ダイヤと炭は同じなんだぜ・・・」
「ジョージ・・・」
ジョージは暖炉の横に無造作に置かれた炭を指差す。
「ダイヤとあの炭の成分は同じなんだ・・・」
ダイヤの無くなったリングをジョージはタオルで磨く・・・
「見かけは全然違うけど・・・本質は同じだ」
俺達のようなモンだな・・・
「炭とダイヤが同じ・・なのか・・・?」
「そうだぜ、お前の気持ちも俺の気持ちも同じだ」
斜に構えるジョージの、挑むような微笑をリーが引き寄せる。
「ジョージ・・・眼が醒めて誰よりも真っ先にお前の顔が見たい・・・」
リーの腕がジョージを抱きしめる。
「眠りつく最後の最後まで・・・お前の顔を見ていたいぜ」
人生の最後まで・・・
「おう・・・」
「結婚しようぜ・・・俺たち」
「・・・リー」
「愛してるぜジョージ・・・」
「これ・・・受け取ってやるぜ」
「これでいいよ・・・オリバー」
ありがとう・・・
フレッドは粗品のガラス玉を自分の薬指にはめる。
「・・・フレッド」
「本物か偽者かはどうでもいいんだ・・・」
大事なのは・・・
俺にとって本物であることだ・・・
「お前にとって・・・」
「オリバーの気持ちは本物だから・・・」
そのオリバーのくれる物は、俺にとってはみんな本物なんだ・・・
「だからこの指輪でいいんだ・・・」
上目で見上げてくるフレッドの、零れる様な微笑をウッドの腕が抱きしめる。
「・・・好きだ・・・フレッド・・・」
「うん・・・」
「俺は世界で一番幸せな奴だ」
「・・・オリバー・・・」
「だからお前を世界で二番目に幸せにするぞ!」
フレッド・・・
「一緒に暮らそう」
「うん・・・オリバー」
「なあリー、お前知ってるか?」
「オリバー、なぜ千と一なのか知ってるか?」
なんで千夜に一夜がくっついているのか・・・
どうして千夜jじゃなく千夜一夜なのか・・・
「千と言う数は無数を意味する数字なんだ・・・」
「千夜と言うのはたくさんの夜を意味し・・・」
その無数に、更に一を加える事で・・・
数え切れぬほどの夜に、一夜を加える事で・・・
「永遠を意味するんだ・・・」
「永遠という言葉を表すんだ・・・」
共に過ごした千の夜に・・・・
これから過ごす千もの夜に・・・
「共に過ごすこの夜を・・・」
「始まりのこの一夜を・・・・」
「加えようぜ・・・」
「加えよう・・・」
この愛を・・・・
永遠と呼ぶ為に・・・
「なあジョージ・・・本質は同じだって言うことは・・・」
俺とお前・・・
「どっちがダイヤモンドでどっちが炭なんだ・・・?」
「リー・・・お前本気で知りたいのか?」
「うっ・・・・・いや・・・いい・・・やっぱ遠慮しとくぜ」
「すまんフレッド、来年は新しい指輪を買うから・・・」
「いや、指輪はこれでいいぜ・・・」
そのかわり・・・・
「車にしてくれ!」
「く・・・車っ!?」
「そう、俺ワーゲンがいいな〜」
「ほっ・・・本物じゃないとダメかっ!?」
「当たり前だっ!!」
END
![]()
ダイヤモンドの語源はその強度な硬度から、何者にも征服しえないと言う意味の
『アマダス』 と言う言葉に由来しています。
また、有名な著述家プリウスはその著書の中で、ダイヤモンドは
人間の所有するあらゆるものの中で,
最大の価値を持つものであると書き記しています。
KAZAMIDORI
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『紅い薔薇』のカザミドリ様から開設祝いに頂きました!vv
完成前からすでに予約させていただいていたという
ホントに素敵なお祝です!もったいないです!(>_<)
オリバーとリーの全然タイプの違う二人が
結局同じような結果になってるところが笑えます。
ダイヤモンドも炭も同じ。何だかいいですよね〜vv
ペテンの貴公子だけじゃなく料理の鉄人なのね、リー。
結婚して!!(笑)
最後のフレッドの注文がツボでしたvv
カザミドリさん!
ロマンチック(そして笑える)なお祝、
本当にありがとうございました!vv
↓壁紙を使用させて頂きましたv
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双子屋工房様