『FLOWER RULE』

    「恋愛日和。」P30より


「絶対鍛えて見返してやるからな」
 口を尖らせて宣言してやると、律が歩を緩めて真を見遣った。またどうせやるだけ無駄だとかそんなようなことを言われるに違いない。そう思って構えていたら、律が真を見つめたまま口を開いた。
「別にいいんじゃねぇの? おまえはそのままの方がカワ…」
「カワ?」
「……」
「……」
「……可哀想、だし」
「は?」
 思わずポカンと見つめると、律は前を向いたままシッシッと犬を追い払うような仕草で真の視線を払った。
「余所見してるとコケるぞ」
「……意味わかんないんだけど」
「ちゃんと前を向いて歩いていないとその辺の段差に蹴躓いて転ぶぞ」
「そっちじゃなくてその前!」
 意味がわからない上に絶対何か妙な間があったように感じたのだが、結局うやむやにされてしまった。相変わらず律はわかりにくい。
 白状する気配が見受けられないので、諦めてずっと気になっていた別のことを訊くことにする。
「あのさ、この前談話室で…」
 そこまで言った途端、急に後悔の念に襲われた。
「何だ?」
「その…」
 続けるはずだった言葉が喉から先に出てこない。ずっと心に引っ掛かっていたことだったがそれを訊ねるのはひどく愚かしいことのように思えて、口籠ったまま真は足元に視線を落とした。
「樹のことか?」
「……」
 返事はしなかったが目を見張ったのを肯定と取ったようで、律が浅い溜息をもらした。