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『メトロノーム』
P7より
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「やめちゃいなよ──手塚なんて」
「……」
言い終えた途端、暗い熱に満たされた自分のその声に菊丸は愕然となった。
気づかれたかもしれない。
伝えたくて伝えたくて、でも壊してしまうのが怖くて隠し続けてきた感情。
頭から指先まですっと血の気が引いていく。不二と視線を合わせたまま息を飲んで拳を固く握りしめた。
だが菊丸の怖れとは裏腹に、不二は目を見開くことすらしなかった。
ただ一瞬の間に音も無くあの硬質な空気が彼を包み込んだだけだった。ブラインドが下りて視界を閉ざすように。
ふいに夢から醒めた時の、あの感じに似ている。
この瞬間には慣れているはずなのに、それでも胸が詰まった。
不二は無表情と言ってもいいほどの顔でゆっくりと瞬きを一つすると、
「何を言い出すのかと思ったら、」
はっとするほど静かに笑った。
何を言い出すのかと思ったら。
そこには叱責の念も呆れの色も含まれていなかった。滑らかで、奇妙に平坦な声。
ただ金網に残された指先だけが小さく震えていた。
唐突に、彼の意識が此処ではなくもっと遠くで彷徨っていることを悟る。
すぐ目の前にいる菊丸へではなく、もっと遠いところで。菊丸の知らない場所。知らない記憶。
知らない、想い。
「──僕たちはとっくに終わってるよ。知ってるでしょ、英二?」
ひっそりとそう言った不二があまりに綺麗に微笑んだので、確信してしまった。
彼の胸の奥深くにはまだ、手塚の存在が確かな色を帯びて絡まっているということを。
まるでフェンスにかけられた、この白い指のように。
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