『無条件降伏論』

     P4より


「…悪い、その、ブン太と間違えた」
 らしくもないと思いながらも何とか押し出したその声には未だはっきりと動揺の色が残っていた。
 羞恥と困惑に乱れた思考を宥めながら、しげしげと目の前の姿を見つめる。
 よく、似ている。
 だがこうして眺めてみるとやはり別人だった。勝気そうな瞳も頬のラインも似てはいるがこの彼の方が全体的にやや鋭い。近くに立たれてみると背もブン太よりも大分高く、仁王と目線の高さがあまり変わらないことに気がついた。
「ああ、アンタ兄貴の友達?」
 ──兄貴。
 面倒臭そうに呟かれた言葉に漸く答えを見つけて仁王は無意識に止めていた息を吐いた。
 そうだ、何故こんなにも簡単なことに思い至らなかったのだろう。下の弟にしか会ったことは無かったが、確かブン太には弟がもう一人いたはずで、兄弟ならば顔が似ていても不思議ではない。この明らかなDNAの主張に気付かなかった自分はどれだけ動揺していたというのだろうかと、仁王は別の意味でも驚いてしまった

「──のわけねえか」
「え?」
 ふいに零された言葉の意味を取り損ねて視線を上げると、目を細めるようにして仁王を眺める彼の唇の端が緩やかに上がった。
「友達、は、こんなことしねえもんなぁ?」
「!」
 しまった、と思った時はすでに遅く。
 意味を悟った仁王がシャツの前を合わせるのよりも早く、伸びてきた指が剥き出しの肌に散っている赤い痕の上を、つう、と撫でた。反射的にビクリと揺れてしまった躰に、頬が微かに熱くなる。
「敏感」
 短く口笛を吹いて、ブン太の弟は声を立てて笑った。