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『WISH《中篇》』
「虹色日和。《中篇》」P24より
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「──泣いたのか?」
低く問われ、自分の赤く腫れた目に気がついて思わず視線を逸らして俯いた。
恥じ入る気持ちと胸を占めるやる瀬ない想いとが混じり合い、呼吸を詰まらせる。何から、どう訊ねていいのかわからなくて、三木に吐露する前の気持ちに戻ってしまったかのように厚く重たい不安の層がじっとりと胸の奥を埋めていくのを感じた。
短い沈黙の後に律が何かを言いかけた時、奥の通りの方から自転車の軽やかなベルの音が響いてきて二人はハッと我に返った。自分たちが往来に立ったままでいることを思い出す。
「来いよ」
低く言い捨てた律が真の腕を掴んで門の中へと引き返した。乱暴に掴まれた腕が痛んだが、勢いに気圧されて何も言えずに引きずられる。
「…っ」
玄関に入るなり閉めたばかりの扉に躰を押し付けられ、背中を打ってひゅっと息を呑んだ。抗議の声を上げようとするのを遮るように、バンッと真の顔の横へ律が手を付いた。
「説明しろよ」
「…なに怒ってんの?」
二人の他に誰もいない家の中はしんと静まっていて、大して大きな声でもないのにやけに響いて心を震わせた。
「杉原さんは?」
「香苗? 香苗なら家に送ったけど?」
何とか心を落ち着かせようと視線を逸らして訊ねると、すぐに苛立った声を返されてしまった。香苗のことをまるで関係のないことのように素っ気なく言われてしまい、継げる言葉が見つからなくて戸惑う。
「あいつに何かされたのか?」
ふいに問われた言葉の意味を計り損ねて、視線を上げた。
「あいつって? 三木さんのこと?」
「他に誰がいるんだよ」
「だから何で怒ってんの?」
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