(前編)
「おおっ!ビューティフルだぜ〜」
「うおっ!眼がチカチカするぞっ!」
ガラスに額をくっつけたリーとウッドはそれぞれ声を上げる。
仕事帰りに飲みに行こうと待ち合わせた二人は、
街の宝石店のショーウィンドウを覗き込んだ。
キラキラと輝く、色とりどりの宝石がこれでもかとケースの中に並んでいる。
この店の前だけは飲み屋のオネ―サン連れでは通りたくないぞ・・・
ぼんやりと、そんな事を考えるウッドの隣でリーが溜息を吐く。
「やっぱダイヤモンドだぜ〜」
「あ・・・?何がだ・・・」
ケースの奥の、一際豪華にディスプレイされたダイヤモンドの指輪に
リーの視線が釘付けになる。
「もちろん、バースディプレゼントだぜっ!」
愛しいジョージへの・・・
リーは自分でごちながらうんうん頷いた。
バースディ・・・・ジョージの・・ジョージの誕生日という事は・・・?
「どっぁああ―――っ!!」
わっ・・忘れてたっ!!・・・・
ウッドが思わず叫び声を上げた。
決算期の忙しさに追い立てられる余り、
すっかりフレッドの誕生日を忘れていたぁぁあ!!
あ・・・危なかった・・ヒジョーにマズイところだった。
また一月は口を利いて貰えないところだ・・・
いや、誕生日を忘れたとなると三ヶ月は堅いかもしれん!
触らせてもくれないところだ・・・
「何を叫んでんだ?オリバー・・・」
「いっ・・いやっ何でも無いぞっ!」
冷や汗を滲ませながらウッドは心の中でリーに感謝する。
「それで何でダイヤなんだ?リー!?」
いつものバー『ロマンローズ』のカウンターに腰掛け、それぞれグラスを傾ける。
「そりゃ、4月の誕生石はダイヤモンドだしさ〜」
それに・・・・
琥珀色の液体に浮かんだ氷をリーはカランと揺らす。
「エンゲージは古来より、ダイヤと相場が決まってんじゃねぇ〜か〜」
「・・エッ・・エンゲージ!?」
「そっ!なんつってもダイヤモンドは永遠の輝きだぜ〜」
二人の愛は永遠に輝くんだぜ〜
「永遠の輝きか・・・」
ウッドはグラスに口をつけ、先ほどのクラシカルなデザインの指輪を思い出す。
「しかしリー・・・二人とも指輪なんか喜ぶのか?」
昔・・・指輪でもめたからな・・・ウッドは顔を曇らせた。
「ん〜普通に渡したんじゃ喜ばないかもな・・・」
「普通じゃない渡し方ってどんなだ・・・?」
皿でも回しながら渡すのか?
「アホかオリバー!演出だよ演出っ!」
「はぁ?」
「誕生日をおもいっきりロマンティックに感動的に演出するんだ!」
そして指輪を捧げ・・・
蕩けるような愛の言葉でプロポーズだぜ〜
「・・・・・ど・・どうやるんだ?!」
リーの言葉に思わずウッドの声がデカくなる。
「あ?んな事は自分で考えろよ・・・」
フレッドがじ〜んとくるような演出を・・・
「・・・・じ〜んとくるような」
フレッドが・・・・
「そうそう・・・俺はジョージがじ〜んと・・・」
適度に回るアルコールに酔いながら、二人はそれぞれの演出に頭を捻った。
「とにかく、まずはプレゼントを用意しなけりゃな〜」
話になんないぜ〜
次の日の仕事帰り、リーは再び宝石店を訪れた。
「昼休みに金出してきたからな〜」
へへっ、なんだかアラブの王様気分だぜ〜
昼食時間に銀行の金庫から、リーはありったけの金貨を掻き集めた。
「指輪買う為に昼メシ代も飲み代も節約したからな・・・」
三ヶ月間半額バーガーばっかりだったよな・・・
頑張ったぜ・・・俺はっ!
辛い日々を思い出し、込み上げる感慨にじ〜んと胸が熱くなる。
「って、俺がじ〜んとしてどうすんだよっ!?」
ハッと我に返り、頭を掻きながらリーは宝石店のドアを押し開いた。
「う〜ん演出か・・取りあえずモノを買っとかん事には・・」
仕事を終え、ウッドは作業着のまま閉店間際の銀行に駆け込んだ。
金庫の中の金貨を慌ててポケットに詰め込み、
嫌そうに急かす行員を、煩いとばかりに睨みつけ銀行を後にする。
「くそっ!サービスの悪い銀行だっ!小口客をもっと大事にしろっ!」
しかも何だこの利息はっ!発砲酒しか買えんじゃないかっ!
俺の尊い労働の結晶だぞっ!もっと気合を入れて運用しろっ!
「ガリオンクジが当たっても絶対預けてやらんからなーーっ!」
ブツブツ怒りながら、ウッドは昨日の宝石店のドアを勢いよく押した。
「ありゃ・・・オリバー!?」
「おっ!?リーか・・・」
自分の後から険しい顔で入って来たオリバーにリーは目を丸くした。
「何だ・・・オリバーも結局買いに来たのか?」
「おお、お前もか?」
互いにそうだと頷き合う。
「しかし、なんだよオリバー・・・着替えぐらいして来いよ・・・」
作業着じゃねぇーか・・・宝石店に来る格好かよ!?
「ほっとけ!着替えてたら銀行に間に合わんかったんだっ!」
金は持っとるぞっ!
「とてもエンゲージリングを買うカッコじゃないぜ・・・」
「なんだとっ!お前こそ、その葬式みたいなシャツにチャラチャラした首輪は何だっ!」
「こりゃアニエス・ベーのシャツだっ!こっちは首輪じゃなくてチョーカーだっ!!」
「何がアッカンベーだっ!もっと爽やかなカッコをしろっ!男はストーカーなんかするなっ!」
「爽やかってのは作業着の事かっ!ああん!?」
「煩い!男の戦闘服と呼べっ!しかもあの『源さん』ブランドだぞっ!」
「知るかっ!アニエス・ベーはブラピも愛用してるんだぜっ!」
「ブラシになってどうするんだっ!?それより作業着を身に着け突貫工事でもして
男の生き方でも学ぼうと言う気持ちにはならんのかっ!!」
「着たくねぇーよっ!んなものっ!!」
入って来るなり言い合いを始めた黒シャツの男と作業着の男に店内が騒がしくなる。
「っまあいい・・・ところでリー・・・その・・演出とかはもう考えたのか?」
「・・・おお!任せろバッチリだぜ〜」
ナイスアイデアだ・・・
互いに息を整えながら会話を続ける。
「おい、どんなだ?」
教えてくれっ!
ニヤリと笑うリーにウッドはにじり寄る。
「フフン!ヤダね!真似するつもりだろ〜」
「いやっ・・・ホンの参考までに・・・」
「あの・・・いらっしゃいませ・・・・」
恐る恐る店員が声をかける・・・
しかし・・・
「嫌だね、誕生日の為に俺は並々ならぬ努力で金を貯めたんだ」
半額ハンバーガーの日々だぜ〜・・・
無視された・・・
「あっ!お前〜っ飲み代俺にたかってたのはその為かっ!!」
それでやけに誘いが多かったんだなっ!!
ウッドの顔が歪む。
「いいじゃねぇーか、先輩だろっ!接待費もあるんだろーがっ!」
ケチケチすんなよ!
「なんでお前を接待せにゃならんのだっ!!」
最近は経費削減で接待にも自腹切っとるんだぞっ!
「それをこの野郎〜人に内緒でこっそり金貯めてたんだなっ!」
「何でオリバーにいちいち預金額を言わなきゃなんねぇーんだっ!!」
「いらっしゃいませぇぇ―――っ!!」
「あ・・・」
「は・・・・」
「こちらがダイヤモンドの指輪になります・・・」
品質やカラー、大きさ・・・
それに台のデザインも違いますので・・・
店員の運んできた黒いビロードの張られたトレーを二人が覗きこむ。
「カラーって・・・ダイヤに色なんかあるのか!?」
オリバーの驚いた声が響く。
「はい、こちらはブルーダイヤ・・・こちらのはピンクですね・・・」
「ほう・・・このピンクは幾らだ?」
ウッドは大粒のタテ爪ダイヤを指差した。
「44万4千ガリオンです」
「なっ!なにぃ〜〜っ!!」
「ゲ――ッ!?」
値段を聞いたウッドが思わず立ち上り、リーが身体を引いた。
「23階建て敷地面積142坪のビルが建つぞ――っ!!」
「給料の185年分だぜ・・・・」
「おいっ!全部そんなに高いのかっ!?」
「給料の三ヶ月分ぐらいで買えるヤツは無いのかよっ!?」
驚愕する二人に店員が慌てて手を振る。
「いえっ、これは特別です!カラーダイヤの中でも特に高価なモノで・・・」
「そ・・っ・・そうか・・・」
くそっ!そんなもの最初から出してくるなっ!
「オイオイ、もっと庶民的なモノを頼むぜ・・・」
俺たちゃ王様じゃないんだぜ・・・もうアラブの王様はヤメだ!
「こちらなどは如何でしょうか?」
「どら・・・」
「ん〜・・・」
昨日見た、ショーウィンドウに飾られていたリング・・・
クラシカルなデザインの台にはめ込まれたダイヤがキラキラと輝きを放つ。
「『アラビアンナイト』と名付けられた指輪です」
「アラビアンナイト?」
「月の砂漠をイメージして作られたデザインですので・・・」
そういえば、波型の彫刻を施したプラチナ台にはめ込まれたダイヤモンドが、
砂漠を照らすお月様のようだ・・・
「派手じゃないし、古めかしいけどシンプルだな・・・」
目の前に翳し、リーは眼を細めた。
「おお・・・フレッドの白魚のような指に似合いそうだ・・・」
覗き込むウッドも満足げに頷いた。
「幾らだ?これは!?」
リングを指差しウッドが尋ねる。
「はい、800ガリオンです」
「800ガリオンか・・・」
「う〜ん・・・妥当なトコだぜ・・・」
さっきのダイヤと比べたら、発泡酒や半額バーガー程度の値段に思えてくる。
しかもリングは同じデザインのものが丁度二個揃っている・・・
「ジョージとフレッドになら同じ物でも構わんだろ」
「ああ、かえってその方がイイかもしれないぜ〜」
よしっ!・・・
ウッドとリーは顔を見合わせ『アラビアンナイト』にぴたりと指を突きつけた。
「よしっ買ったぞっ!そいつをひとつ包んでくれ!リボンは赤だっ!」
「テイクアウトだぜ〜!おっとスマイルを忘れないでくれよ〜!」