<木花さんパートあらすじ>
帰る支度をしている準太の携帯が鳴り、出てみると相手は島崎だった。咄嗟についた「友達の家にいる」という嘘はすぐに見破られ、どこにいるのかと強く問い質される。答えるのを躊躇っている準太の手から携帯を奪い取った榛名は自分の家で二人きりでいると告げ、「30分。30分でココに来いよ。30分たったら高瀬は俺がもらうからな。それじゃ、島崎サン頑張って」そう言い放つと電源を切ってしまった。

<七瀬パート>
※榛名視点


  胸を締め付けるざらついた感情を持て余し、榛名は高瀬から視線を逸らした。
 「とまあそういうわけだから高瀬。俺寝るからさ、30分経ったら起こして」
  軽い調子で告げながら、いったい何をやっているのだろうと自嘲する。
  息をする度に胸には痛みだけが鮮やかに返り、じわりと苦い想いが広がった。顔を合わせたく
 なくて、榛名はベッドに潜り込むと高瀬に背を向けた。
 「ちょっ、そういうわけって何だよ今の…!」
  茫然と佇んでいた高瀬が我に返ったのか、焦りに上擦った声を上げる。
 「いーじゃん、おまえだって楽しみだろ? 慌てふためく島崎なんて滅多にお目にかかれねんじゃ
 ねーの?」
  目を閉じて背を向けたまま、笑みを含ませて答えた。
  30分という制限時間は無理だとわかっていて告げたものだった。島崎が今どこにいるのかはわ
 からなかったが、彼が榛名の家の所在など、当然、知るわけがない。
  薄く目を開けて時計の針の位置を確認する。
  せいぜい焦ってくれよ、島崎サン。
  声には出さずに、その呟きを苦い想いごと飲み下す。
  このまま本当に寝てしまおうかと半ばヤケになって再び目を閉じた時、
 「…今だって別に慌ててなんかいねぇよ」
  ふいに返された静かな声に、榛名は思わず躯を起こして振り返った。
 「……」
  一瞬、泣いているのかと思った。
  ベッドに背を預けて座る高瀬の俯いた横顔を見つめる。
  緩く伏せられた彼の瞳に涙はなかったが、触れたら崩れてしまいそうな張り詰めた空気がそこ
 にはあった。
 「来ないと思ってんだ?」
 「……」
  返事は、無かった。
  枕の上に頬杖をついて、その白い横顔を眺める。
  悪いのは、信じることのできない高瀬なのか。
  それとも。
 「まあどっちにしろ島崎が来ようが来まいがおまえは俺のモンになるんだからどうでもいいけど
 さ」
  信じさせてやれない、島崎なのか。
 「──うっせーよ、人さらい」
  ようやく顔を上げた高瀬が、そう言いながらゆるりと振り返って榛名の腕の下の枕を引っ張る。
  すぐに強がっているとわかるその小さな硬い笑みを見て、込み上げてくる愛しさにまかせて目
 の前の手首を掴んだ。
 「だからそう無防備に近付くなよ。ひとがせっかく我慢してやってんのに」
 「何が我慢だよ。すぐ触んなっつーの」
  慌てて手を振り解いて睨んでくる高瀬の瞳がまだ不自然に揺れているのを見て、島崎に会った
 ら殴ってもいいだろうかとぼんやりと思った。
  ちらりと時計へと視線を遣ると、針はまだ5分しか進んでいない。
  思ったより長い30分になりそうだと、榛名はそっとため息をもらした。








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