<木花さんパートあらすじ>
「榛名…もう…」「やめねぇよ。やめれるわけないだろ?」どうして自分は榛名とこんな事をしているのだろうと思いながらも、快感を知っている躯は愛撫を受けて勝手に熱くなっていく。それでもどうにか止めさせようとする準太に、榛名は「おまえを不安になんてさせないから俺を信じろよ」と告げて…。



<七瀬パート>
※榛名視点


  本当に、感じ易い躯だ。
  榛名の手を阻止しようとする意志に嘘はないようなのに、ほんの少し刺激を与えてやるだけで
 この腕の中の躯は抵抗する力を失ってしまう。
 「はる…な…っ」
  熱に掠れた声が甘ったるく躯の芯に絡み付く。こんな表情を浮かべてこんな声で名を呼んで、
 それで止められると思っているのだからこの高瀬という男は本当にどうしようもないと思う。
  柄にもなく真剣に愛を告げるなどということをしてしまったのも、全てこいつが悪いのだと榛
 名は熱に麻痺しつつある頭で思った。
  手に入れたい。優しくしたい。泣かせたい。
  全てを奪って榛名のこと以外、何も考えられなくしてやりたい。
  躯の中でせめぎあう感情の渦に急かされるように、榛名の手は滑らかな肌を弄った。
  ふと。
 「…ご…さん」
  それは、ほんの小さな、声にならない程度の呟きだった。
  だがその掠れた声が無意識に求めた名前は鋭い棘となって榛名の耳を通り抜け、胸の奥へと突
 き刺さった。
  手が、止まる。
 「──そんなにあいつがいいわけ?」
  唇が勝手にそう訊ねていた。
  本当に無意識だったことを示すように驚愕の表情を浮かべている目の前の瞳を見据える。
 「……」
  榛名の視線から逃れるように目を伏せた高瀬が、唇を噛んで黙り込んだ。
  何だよ。何か言えよ。
  肩を掴んで激しく揺さぶってやりたいのに、何故か榛名の手も動かなかった。
  高瀬の目尻に今はもう涙は無かったが、その睫毛の先が細かく震えていた。
  今まで幾度となくこの目の前の綺麗な顔を歪ませ泣かせてやりたいと思ってきたのに。だが榛
 名が望んでいたそれは、こんな風に息を殺して胸の奥の何かを削り捨てるようなものなんかでは
 なくて。
 「泣くなよ」
  だからもう一度涙を見せられる前にと、低く呟くと、
 「──泣いてなんかねぇよ」
  返ってきた声はやはり少しだけ震えていた。
  何かを言おうとして開きかけた唇を、そのまま閉ざす。言葉を見失って、押し黙ったまま榛名
 は無防備に晒された高瀬の肌に散っている無数の鬱血を見つめた。
  所有の印とは、よく言ったものだ。
  島崎にこの肌に熱を落とされていく高瀬の姿が脳裏に浮かびそうになり、ふいに榛名は乱暴に
 髪を掻き上げると高瀬のシャツの前を合わせた。
  口の中で、畜生、と呟く。
  半ば茫然とした面持ちで見上げてくる高瀬の瞳を見据える。
 「…さっさとその痕消せよ。そん時ゃ全部、俺のモンだからな」
  自分でも馬鹿だとわかっていた。別に無理に奪うことになど何の抵抗もなければ躊躇う性分で
 もない。
  それでもここでそうしてしまったら、自分は島崎以下になってしまうのだ。
  何故かふいに強くそう思った。
 「おまえ今、チャリの後ろ乗れる? 立ち乗りなんだけど」
  今度は明らかに困惑した顔をした高瀬の服を直してやりながら、
 「送ってくって言ってんの」
 「…榛名、」
 「──このまま二人きりでいられたらいくらなんでも我慢できなくなるっつーの」
  ひどく不貞腐れた声になっているのが自分でもわかって、子供じみている、と増々榛名の気分
 は悪化した。
 「乗れるよ」
  突然行為を止めた理由は訊ねずに、高瀬は静かな声でそう答えた。








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