<木花さんパートあらすじ>
「好きだ」準太は榛名から離れようと必死になって抵抗するが、長く逞しい腕が逃がすまいと締め付ける。「おまえが欲しいんだ、高瀬」普段の榛名からは想像もつかないような優しいしぐさで準太の首筋に唇を落とし柔らかく吸い上げた。


<七瀬パート>


  首筋にチリリと微かな痛みを感じた。
  肌を吸われ、甘い疼きが背を這い上がる。
  昨日島崎から散々熱を与えられた躯は、それだけで簡単に火照りを取り戻して小さく震えた。
 「感度いーじゃん、高瀬」
  首元に顔を埋めたまま榛名がクスリと笑う。
  シャツのボタンに指をかけられて慌てて止めようとした手をあっさりと捕らえられ、床へと縫
 い付けられてしまった。
 「はる…なっ」
 「ちょっと黙ってろよ、すぐに気持ち良くしてや…」
  肌に冷やりとした空気を感じた時、ふいに榛名が押し黙った。
  彼の茫然と見張られた瞳を見て、準太はしまった、と息を呑む。
 「やめっ…!」
  無言のまま引き毟るように残りのボタンを外していく榛名を何とか止めようとしたがすぐにシャ
 ツは左右に開かれ、準太の上半身が彼の前に晒された。
  自分の肌に散っている無数の赤黒い鬱血を見たくなくて、準太は榛名の視線から逃れるように
 顔を背けた。
 「…あのガキか?それとも、」
  低く押し出された榛名の声が告げようとした名前に、思わずビクリと肩が揺れる。
 「──島崎か」
  準太のその反応で察した榛名の声が、一際低く掠れた。
 「……」
  無言を肯定と取った榛名が口の中で何かを呟く。
  怒りを抑えようとするように、彼は深く吸い込んだ震える息をゆっくりと吐き出した。
 「具合悪いの、このせいだったんだな」
  まだ怒気のこもった低い声で榛名が独り言のように呟いた。
  少しの間の後、彼の長い指に肌の上の鬱血を順に辿るように撫でられて準太がぎゅっと目を瞑
 る。
 「あいつ、いつもこんな抱き方してんのかよ?」
 「違う!」
  思わず声を上げ、いつの間にか解放されていた手で榛名の服を掴んでいた。
 「これは俺がっ…俺が怒らせたから…!」
 「怒らせたって何だよ?」
 「それは…」
  言い淀んで口を閉ざしたが、
 「高瀬」
  強く促され、震える唇をゆるゆると開いた。
  細く、息を吸い込む。
 「…俺が、利央と寝たから」
  胸を締め付ける苦しさを誤魔化すようにわざと投げやりに言葉を押し出した。 
 「……」
  無言のまま、榛名はじっと準太を見下ろしていた。
  何も言わず、だが、離れることもせずに。
 「──高瀬、」
  やがてゆっくりと名前を呼んだ彼の声からはもう、怒りの色は消えていた。
 「俺を選べよ」
  深く、胸の隙間から染み込んでくるような声だった。
 「…何でだよ」
  無意識に唇から溢れ出ていた準太のその声に、涙が滲んだ。
 「何で俺なんだよ」
  込み上げてきたそれを見られたくなくて、腕で目元を隠す。
  みんな、馬鹿だと思った。
  みんな馬鹿だ。榛名も、利央も──そして、島崎も。
 「どうして俺なんか…!」
 「泣くなよ」
  そっと腕を外され、唇で涙を掬われる。
 「俺にしろよ、高瀬。…全部、忘れさせてやるから」
  強く目を瞑った拍子に流れ落ちた新たな涙もまた、榛名の唇に静かに掬い取られていった。








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