| summertime lovers *5 窓を閉めたり他の家電をチェックしたりしている内に、空気が少しずつ軽くなってきた。 「あーあ、冷凍庫のやつみんな溶けちゃってるよ」 「アイス食っといて正解だったな」 「これはそのまま自然解凍で大丈夫だよね?」 不二とブン太が並んで冷蔵庫の中を覗き込んでいると、 「やっぱクーラー最高! 生き返るー」 嬉しそうに伸びをしながらやってきた菊丸が二人の間に割り込むように首を突っ込んできた。 それをすかさずブン太の手が押し返す。 無造作に顔を押されて仰け反った菊丸の口から、ぐぇ、とくぐもった音が漏れた。 「もう、何すんだよー」 顎を摩りながら抗議すると、 「何かおまえが側にくるとせっかく下がった気温が上がんだよ、暑苦しい」 シッシッ、といかにも嫌そうに手を振られた。 「うわ、ひど。ふじぃー」 「はいはい」 泣き真似をしながら再び盛大に抱きついてきた菊丸を、不二が慣れた手付きで宥める。 そんな二人を心底呆れ返った顔で見遣った後、ブン太は暑さに傷んでしまった食品が無いかど うか調べることに専念しようと冷蔵庫の中へと向き直った。 「なあ、夕飯どうする?」 ゆったりと居間の方からかかったその声に、冷蔵庫の前でひしめき合っていた三人は動きを止 めて揃って振り返った。訊ねた当の仁王はというとビデオデッキの時刻を合わせている最中で、 作業の手を休めることなく顔を手元へ向けたまま続けた。 「昼が早かったからもう腹減っとるんじゃけど」 そう言われてみると皆、急に空腹を覚え出した。季節柄まだ外は明るさを残していたが、時計 を見ればすっかり夕方の時刻に入っている。 「冷蔵庫ん中、ロクなもん残ってないぜ? うーん、面倒くせぇけど買物行ってくるか」 仁王と共に今日の食事当番であるブン太がそう答えると、 「もう今日はこのまま外に食べに行かない?」 「うん、そうしようよ。俺もすごい腹へったー」 既にすっかり空腹感にみまわれている不二と菊丸が迷うことなく提案した。クーラーの冷気が戻っ たとは言え、全員すでに先程までの暑さによって大分体力を消耗している。 「おーそうしてもらえると助かるわ」 「じゃあちょっと早ぇけど行こうぜ」 「このままで行くん?」 ふいに思い出したように告げられた仁王のその一言に、腰を上げかけていた皆の動きがピタリ と止まった。 そう言えば、とそれぞれ視線を互いのいつもよりも賑やかな髪へと向ける。 「いーんじゃない?」 「絶対ヤダよ!」 「冗談だろ?」 「俺は別にええけど」 同時に発せられた言葉が重なり合って、皆が一瞬きょとんとした顔になった。 顔を見合わせたまま頭の中で絡まった言葉を解いていく。 「えー何で嫌なの不二!?」 「よくねぇよバカ!」 解き終わった途端に今度は菊丸とブン太が同時に声を上げ、抗議された側である不二の顔には 不服そうな表情が、仁王には不思議そうな表情がそれぞれ浮かんだ。 「嫌に決まってるだろ。誰かに会ったりしたらどうすんのさ」 「いいじゃん別に」 「嫌だってば! 女の子じゃないんだから」 「可愛くていいじゃん! てゆか俺としてはその髪の不二のこと見せびらかして歩きたいんだけ ど」 「ちょ、何それ! 変なこと言わないでよ英二。英二は勝手にそのままで出かけたらいいだろ。 僕は嫌だからね」 フイッと頬を逸らした不二に、菊丸がそんなぁ、と情けない声を上げた。 そんな二人のやり取りが行われている一方で、 「何で駄目なん?」 「ダメっつったらダメなんだよ!」 「別に嫌なんやったらブン太だけ取っていけばええじゃろ」 「そうじゃなくって! …おまえな、どうしてもそのまま外に出るって言うんならな、」 「何やの?」 「マフラー、させてくからな」 「……」 ぽかんと口を開けた仁王の手が、そろりと伸びてブン太の額に触れた。 「熱なんかねーよ!」 真っ赤になって怒鳴るブン太を黙って見つめた後、仁王が堪えきれなかった笑みを漏らしなが ら震える腹を押さえた。 「…わかってんじゃねぇか」 不貞腐れたように睨むブン太の顔を見つめ返した仁王の口元の笑みが、ふわりと深まった。 結局その晩の食卓には宅配ピザが並べられ、「最初からこうすればよかったんだ」と罵り合い ながらも多めに頼んだピザは食欲旺盛な育ち盛りの四人の胃の中へと瞬く間に消えていった。 彼等の髪はもちろん、食卓同様、華やいだまま揺れていた。 fin. -------------------------------------------------- (20050513) |
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