summertime lovers *4





  ワックスでしっかりとセットされた菊丸の髪の扱いは案外難しく、適当に結んでみたところ外
 に跳ねるように癖づけられていた毛先がとんでもない方向に散らばってしまった。少し体を引い
 て眺めてみたブン太は、いくら何でもこれではあんまりだろうと思い結んだばかりのゴムを解い
 た。
  そもそも暑い時に自分の髪を無造作に結ぶことはあっても、他人の髪を結わいてやったことな
 ど一度もない。仁王の後ろ髪を結ぶのはどんな感じがするのだろう、とぼんやりと思いながら居
 間の方へと視線を巡らせてみると、ちょうど不二が仁王の髪を器用に結い上げてピンで留めてい
 るところだった。
  露になった白い項が目に映る。
 「イテテッ! 丸井、引っ張ってる! 引っ張ってる!」
 「え? あ、ああ、ワリ」
  手元から上がった悲鳴に我に返ると、意識が逸れてあらぬ方向へ引いてしまっていた菊丸の髪
 を慌てて離した。
  何だよもー、と頭皮を摩っていた菊丸の手が、居間にいる二人の姿を眺めた途端にピタリと止
 まった。ふうん、と意味ありげに呟きながら肩越しにブン太を見遣り、目を細める。
 「丸井やーらしー」
  笑みを含んだ声でゆったりと告げられ、ブン太の眉間に皺が寄った。
 「──他の誰に言われてもおまえと赤也にだけは言われたくねぇよ」
 「うわ、人種差別にゃー」
 「うっせ。にゃーにゃー言うなアホ丸。いいからそっち向けよ」
  肩を竦めてみせた菊丸がはいはいと呟きながら前を向くのを待ってから、ブン太はもう一度チ
 ラリと居間の方へと視線を巡らせる。彼らはもうすでに髪を結い終えたようで、白い項に指を添
 えるようにしながら仁王が不二と談笑していた。
  今の自分の顔を見られなくてよかったと、ブン太は目の前の菊丸の後頭部にそっと安堵した。



 「不二かーわいいー!」
  似合うかな、と最後まで言い終わらないうちに飛んできた菊丸が不二の首に抱きついた。
 「ちょっと英二、苦しいってば」
 「だって可愛いんだもーん」
  首に腕を回したまま不二をしげしげと眺めて、ウットリと呟く。
 「英二だって可愛いよ。丸井もなかなか上手じゃない」
  菊丸の髪に結ばれた子供の玩具を思わせる少し大振りな水色の玉が、彼の顔をいつもより幼く
 見せていた。穏やかに微笑んだ不二がそれをちょこんと指先で弾くと、ヘヘ、と相好をくずした
 菊丸が甘えるように不二の肩に額を擦り付けた。
 「もうさー聞いてよ不二ー。丸井ったらさぁ、仁王のウナ……いだだだっ!」
  語尾が悲鳴へと変わり、驚いて集まった皆の視線の先でブン太の足が菊丸の足の上から何事も
 無かったように外された。
 「っ…丸井ー! 今かかとでやったろ!? かかとで!」
  足の甲を押さえてピョンピョンと跳ねながら怒鳴る菊丸の声をブン太が綺麗に無視し、
 「ふじぃー」
  泣き真似をしながら菊丸が再び不二の首にしがみついた。よしよし、と子供をあやすように、
 諦めたような顔を浮かべた不二がその背をポンポンと叩く。
 「ね、不二、今の見た? 見た? 酷くない? 俺のか弱い足によりによってあの超重量級の体
 重をさぁ、」
 「菊丸あとで殺す」
  低く言い捨てたブン太が顔を上げた拍子に、ふいに視線が仁王のそれとぶつかった。
 「俺の、なん?」
 「何でもねーよ」
  視線を逸らす前に訊ねられて仕方なく不機嫌な声を返す。ソファの背もたれに浅く腰をかけて
 緩い笑みを浮かべている仁王はきっと何かを勘付いているに違いなく、わざと訊ねているのだろ
 うとブン太は思った。
 「気になるじゃろ」
 「うっせーな。何でもないって言ってんだろ」
 「…ふーん。後で菊丸に訊くからええもん」
  わざとらしく拗ねた子供のような口調を作って告げた彼にブン太が思いきり眉を顰めた瞬間、
 前触れなく微かに壁を震わせる低い音が四人を包んだ。
  何事かと皆が一斉に辺りを見渡すのと同時に、あちこちから沈黙していた家電製品がうなり声
 を上げ始める。
 「あ…」
 「お」
  どうやら、停電が直ったらしい。
  淀んだ空気を縫うように、一際大きな音を立てて動き出したエアコンから冷えた風が流れ出て
 きて四人の頬を掠めた。
 「──そうだ、窓、窓!」
  しばらく皆で揃ってぼんやりと佇んでいたが、そう言ってバタバタと窓を閉めに走る菊丸の声
 に我に返ってのろのろと動き出した。







    

  
illustrations by FUNYU sama : magatama










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  このSS書き始める前に「髪結び合いっこする菊不二ブンニオって
  どうです?」と言ったらなななんとこんな素敵な絵を舟生さんが
  描いて下さいました…!!カハッ(吐血)。もう何度も何度も眺
  めてはニヤニヤしっぱなしです。可愛すぎる…!!妖精め…!!
  舟生さーん、萌え爆弾を本当にありがとうございました(>_<)v
  キュートな萌え絵ときゅんきゅんピュア小説が読める舟生さんの
  素敵サイトはこちらv
  (20041117)





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