<木花さんパートあらすじ>
「利央はどんなだった?優しくしてくれた?教えろよ準太」…利央の痕を消そうとするように酷い抱き方をした島崎に、準太は「…こんなの、意味のない暴力です」と言葉を落とす。

<七瀬パート>
 

 「…それでも、俺は謝らないぜ」
  ゆっくりと、島崎が告げた。
 「……」
  静かに投げられた声は聞き慣れたそれだったが、その瞳に微かに傷ついたような色が浮かんだ
 のを見たような気がして、準太はぎこちなく視線を逸らしてしまった。
 「送るよ」
  腕を掴んだ彼の手がひどく優しくて、思わずすがりそうになり慌てて振り払う。
 「…一人で帰れます」
  掠れた声を投げると、島崎はもう何も言わなかった。
  だがそのまま去る気配もなく、机に浅く腰掛けてこちらを見ている。
  島崎の方は見ずに痛む体を動かし、準太は微かに震える手で衣服を整えた。



<木花さんパートあらすじ>
「おまえ、結局誰を選ぶんだよ?」問われ、準太の顔が複雑に歪んだ。「…慎吾さんじゃないことは確かです」それでも未だハッキリ選ぼうとしない準太に島崎は「おまえずりーな」と呟く。だが、諦める気はないから覚悟をしておくようにと彼は告げた。

<七瀬パート>


  グラウンドに出てすぐに視線が捕えた姿に、準太の足が止まった。
  息苦しさにも似た熱が胸の内側を灼き、無意識にユニフォームの胸元を握りしめる。
  冷たい厭な汗が、すっと背中を伝い落ちていった。
  遠方のネットの前でチームメイトと何やら話し込んでいる島崎は準太の姿に気づいた様子もな
 く、時折小さな笑みを浮かべては手の中のボールを回している。

  ──おまえ、結局誰を選ぶんだよ?

  もう何度目かわからない島崎のその声が再び胸の内に甦り、ジリジリと増した痛みに準太はそっ
 と目を伏せた。
  いったい自分は、誰を選ぶのか。
  細く息を吐き出して、準太は重たい体を引きずるようにして河合の待つグラウンドの隅へと向
 かった。
  思うように動かないこの体の気怠さは、昨日島崎から受けた行為のせいだけではない。
 「ずるい、か…」
  言われなくとも自分がいかに卑怯でずるい人間であるか、準太にはわかっていた。
  利央の想いの深さを痛いほど知っているのに、島崎に触れられただけでこの体は簡単に熱を持
 つ。指が、すがりたくて震える。
  ひどく冷静で時には冷たくすら思える島崎の瞳の奥に自分への揺るぎない情が潜んでいること
 も、本当は知っていた。その想いの中に包まれる心地良さも、胸を締め付けるような苦しさも、
 知っている。
  島崎の体温を思い出して、ユニフォームの下の肌に残された無数の赤い痕が疼くように痛んだ。
  彼に酷い行為をさせたのは、他ならぬ準太自身なのだ。彼の示した静かな、だが紛れも無く激
 しい怒りは全て、準太への想いの深さを露にしたものにすぎなくて。
  自分は結局、こうして利央と島崎の優しさに甘えている。
  甘え、そして傷つけているのだ。
  何度も何度も。深く、鮮明に。
 「準さーんっ!!」
  手を大きく振りながら賑やかな足音と共に利央がこちらへと走ってきた。
  伸びやかに響いたその声に、島崎も気がついたに違いない。そう思った瞬間に体が強張り、無
 意識に島崎がいる方へ背を向けていた。
 「もう準さんさぁ、昨日から携帯電源切ってるっしょ? 昼休みに教室行ってもいないし、さっ
 きだって……どうしたの準さん? 顔色悪いよ」
  答えることができずに、準太は目の前の心配そうな瞳をただ黙って見つめ返した。








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