| <木花さんパートあらすじ> 心配して覗き込んでくる利央がいつの間にか大人へと成長しつつあることにふいに気づき動揺する準太。「何でもないって顔じゃないよ?」「何かあった?」しきりに訊ねてくる利央を上手く誤魔化したつもりだったが、島崎とのことを悟られたのではないかとどこか不安は残った。 |
||||||||
|
|
||||||||
| <七瀬パート> | ||||||||
練習はまだ始まったばかりだというのに次第に重みを増していく躯に、ため息がもれそうになっ た。 まずい。 額に滲む汗を拭いながら、単に気怠いだけではなくどうやら熱まで出てきていることを準太は 自覚した。 静かに息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。 何とか部活が終わるまでくらいなら持つだろう。今は、この不調を誰にも知られたくなかった。 幸い、何でもない振りをするのは得意であるし、深く被ったキャップがある程度顔色を隠してく れるはずだった。 キャッチボールを始めるために、ボールを握る。 「準太」 だが投げようとした途端にそれを止められて、準太は走り寄ってきた河合を困惑して見つめた。 「和さん、何か?」 「本当だ」 「え?」 「おまえ顔色悪いな。今日はもう帰れ」 上手く隠せていると思った矢先に告げられたその言葉に、茫然とする。 「すまなかったな。もっと早く俺が気づいてやらなきゃいけなかったのに」 本当に申し訳なさそうに呟いた河合に慌てて手を振った。 「いえ、そんな、こんなの具合悪い内にも入らな…」 「慎吾に言われるまで気づかなかったよ。女房失格だな」 上げられた名前に、言葉が途切れた。 押し黙ったまま何とか目線で問うと、 「慎吾が、おまえの顔色が悪いからもう帰らせろって」 準太の動揺には気づいていない河合がさらりとそう告げた。 弾かれたように後ろを振り返ると、準太からはかなり離れたところでボールを投げている島崎 の姿があった。視線はこちらへと向けられることはなく、涼しい横顔だけが準太の視界に映った。 いつの間に、気づかれたのだろう。 今日の部活が始まってから、彼は一度も準太の近くには来なかったはずだ。 ただの、一度も。 「…大丈夫です。続けます」 「何言ってんだ準太。駄目だ。いいから今日は帰れ。監督には俺から言っておくから。これは命 令だぞ」 「──わかりました」 「一人で帰れるか? 何なら誰か…」 「大丈夫です。帰れますから」 「そうか。じゃあ気をつけて帰れよ。ゆっくり休んで早く治せ、な」 はい、と頭を下げ、背を向けて歩き出す。答える自分の声がひどく虚ろに響くのを感じていた。 もう一度振り返って島崎の姿を確かめたかったのに、できないままにグラウンドを後にする。 部室の前まで来た時、ふいに後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえてきて準太はハッと足を 止めた。すぐに後ろから腕を掴まれ、ビクリと躯が震える。 「準さん」 振り返った先に心配そうに歪んだ利央の顔を見て、準太は一瞬、呼吸を忘れた。 「帰んの?」 「……ああ」 胸を押しつぶすような罪悪感に、返事が遅れた。 自分は今、振り返った先に誰の姿を求めていたというのだろうか。 利央の姿をみとめた時に胸の奥に確かによぎった微かな落胆の念を、忘れてしまいたくて準太 は両手を強く握りしめた。 |
||||||||
| << back : top : next >> |
||||||||