<木花さんパートあらすじ>
送っていくと言う利央の顔を見ていられなくて俯いたまま練習があるだろ、と断った。「慎吾さんなら送って貰うの?」罪悪感と瞳を曇らせる利央の不安を払拭したくて、「そんな心配しなくていいから…今度の休みどっか行こうぜ?」準太はわざと話題を逸らした。

<七瀬パート>


 「…っ! うん、行くっ! 絶対行く!!」
  興奮のままに準太の腕を掴んで意気込む利央を見て、胸の内で愛しさと少しの罪悪感が混ざり
 あって溶けていった。
 「約束だよ、準さんっ」
 「ああ、わかったから。ほらもうそろそろ戻れって」
  腕にかけられていた手をそっと外すと、名残惜しそうに利央の視線がそれを辿った。
 「ねえ、準さん、家に着いたらメールしてよ。部活終わるまで携帯見れないけど、ちゃんと帰れ
 たか心配だからさ」
  立ち上がって真剣な面持ちでそう告げる彼に、何処となく落ち着かない気分になり視線を逸ら
 してしまいそうになった。
  こんな風に心配してもらう資格など、今の自分には無い。
  目を逸らしたらこの肌に与えられた島崎の熱の存在を知られてしまいそうな気がして、何とか
 踏み止まった。
 「気が向いたらな」
  胸のざわつきを悟られないよう、わざと素っ気ない声で告げて意地悪く笑ってやった。
  いつものように不貞腐れながら文句を言ってくるのを待つ。
 「ちゃんと知らせてよ…俺には」
  だが返ってきたのは思い詰めたような深い声で、準太は唇からすっと笑みが引いていくのを感
 じた。
  俺には、と告げた利央の声が微かに掠れていた。
  凍えた胸に答える言葉を見つけることができなくて立ち尽くす準太の躯を、利央の腕がそっと
 包む。
 「…お願いだから」
  静かに、祈るようにそう呟いて、利央がほんの一瞬だけの抱擁を解いて準太から離れた。
 「──じゃあ準さん、気をつけて帰ってね」
  何事もなかったように軽く手を振って微笑み、くるりと背を向けてグラウンドへと走り出す。
  投げられた明るい笑顔はいつも通りの彼のものだったが、その笑んだ唇が微かに震えていたこ
 とに、気づいてしまった。
  遠くから監督の怒鳴り声と必死に謝る利央の声が風に乗って流れてきてもまだ、準太は彼の背
 が消えていった先を見つめたまま動けずに佇んでいた。








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